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こいつの髪はこんなにも真っ直ぐだっただろうか

ベッドの中でホープの髪を撫でながら、彼が少年だった頃に記憶を戻してみる。
色素の薄い、温かみのある白銀色。そこは少年時代と変わらない。
だが、幼い頃の彼は見事なまでの癖っ毛だった。
ハリネズミのように跳ねまくっていた後ろ髪はその見た目とは裏腹に柔らかく、触り心地が良かったことを思い出す。

「……おまえ、髪質変わったか?」
「……何なんですか、突然」

こんなに激しく愛し合っている最中に、とでも言いたげにホープは少し呆れた顔で腰の動きを中断させた。

「前はもっとこう、後ろが跳ねてなかったか?」
「……一体いつの話をしてるんです」
「おまえが少年だった頃の話だ。私はあの頃のおまえしか知らないからな」

何せ、ヴァルハラから帰還してまだ間もない。
それに、ホープと付き合い始めてからだってまだ間もない。……というより今日だ。
突然告白されて、そのあまりに真剣な表情にうっかりときめいてしまい、気付いたらOKを出していた。そこからが早かった。
あれよあれよといううちにいつのまにかホープの家にいて、シャワーを浴び、ベッドに運ばれ。そして今に至り、ホープの熱を知ってしまったのだがーー
……待てよ。雰囲気と勢いに流されてしまったが、交際初日にベッドインしているこの状況はアリなのか?私は早まったのだろうか?
ホープの銀髪を指に巻いて弄ったり、撫でたりしながら今の状況に疑問符を浮かべていると

「余裕ですね。考えごとですか?」

ホープが悪戯な笑みで私を見下してきた。

「余計なことは考えなくていいんですよ」
「ああっ……」

“ただ僕を、感じて”

そう耳元で囁くと、ホープは一層激しく腰を動かし始めた。
あまりの気持ち良さに意識が飛びそうになる。

好きです、ライトさん

そう何度も囁く甘い声にとろけそうになる。
ホープの癖毛はいつから落ち着いたのか、今のこの状況はアリなのか、ナシなのか。
そんなことはもうどうでもよくなってしまった。

ああ……
私も、好きだ。

「ーーすみません、ライトさん……っ、寝過ごしました」

キッチンで軽く朝食を作っていると、ワイシャツのボタンを留めながら、ホープが寝室から起きてきた。

「まだ寝てていい。日頃の疲れが溜まってるんじゃないのか?」
「いえ、平気です。朝食なら僕が、」
「いいから休んでろーー……」
「……?」

ホープの顔を見るなり、なるほどなと吹き出してしまった私に、ホープは訝しげに眉を顰めた。

「僕の顔に何かついてます?」
「……いや、何も」

昨夜までは落ち着いていたホープの後ろ髪が、物の見事に跳ねている。跳ねまくっている。それはまるで、少年の頃のように。
寝起きだからだろう、むしろ少年の頃よりもその跳ね具合はパワーアップしていた。

「私の知ってるおまえで安心したよ」
「……は?」

毎朝スタイリング剤を片手に鏡の前で癖毛と格闘しているであろうホープを想像したら再び笑いがこみ上げる。

そんなホープが可愛いと思ってしまったことは、彼には内緒だ。